「おいっ 今日は部長会だから、蔦は来ないぜ」
やがて同級生も、言うことを聞かなくなっていった。
だが、練習にはほとんど来ないのに、試合当日には意外と集まりが良かった。
「はい お弁当っ」
バスケットボールは、ここ近年メディアの力でかなり人気の出たスポーツだ。女子生徒の関心も高い。
自分達を取り巻く彼女らの視線に気を良くしながらコートに入り、惨敗してロッカールームへ戻る。
「ったくっ!」
一人が遠慮なしにパイプ椅子を蹴り上げる。
「お前みたいなチビがチョロチョロしてるから、負けちまったじゃねーかっ!」
理不尽な怒りの捌け口にされた。
「なんであんな子が主将なのっ!」
女子生徒たちも、お目当ての男子生徒の勇姿が見れなかった原因を、蔦へと押し付けた。
唐渓高校では、なぜだかサッカーやバスケといった、定番と思われる部活動が意外と盛り上がらない。
お茶・お華・日舞ならまだ定番の内だろうが、乗馬・ポロ・能楽などと言った、普通の高校ではあまりお見かけしないような活動がもてはやされ、バレーボールなどといった部活動の筆頭とも言える部が、逆にお遊び程度にしか扱われない。
ちなみに唐渓には野球部は無く、別でクリケット部が存在する。故に唐渓は、甲子園には縁がない。
バスケ部も、一部の女子生徒でしか盛り上がらない、中途半端な部の一つ。
バスケが好きで入部した蔦にとって、部の雰囲気が低下するのはやりきれなかったが、仕方がないのかとも思っていた。
野球がやりたくても部自体が存在しないという生徒よりかは、恵まれているのかもしれない。そう言い聞かせれば、少しは気持ちも楽になった。
「先輩達がいなかったので………」
二年に進級し、入ってきた後輩もサボり気味になった。
「蔦先輩もいなかったし、他の先輩達もいなかったので、どうしていいかわからなかったんですよ」
「練習なんて、自分たちでできるだろうっ!」
「お言葉ですが、蔦先輩は主将なんでしょう? 自分が練習に出て来れない時は、事前に指示を出しておくべきですよね?」
蔦の叱責にもしれっと答える後輩の顔。そこに潜むは相手を痴がる態度であって、決して年上に対する敬意ではない。
下級生に見下されるのは、今に始まったことではない。背が低いと罵られるのは、中学からのことだ。
気にすることはない
自分にそう言い聞かせていた。気にしないように…… 聞かないように……
バスケができれば、それでいいじゃないか。
そう言い聞かせ続けた。
だから、彼女らの標的が同性に移動していたのに、蔦はしばらく気付かなかった。
「この間の試合、負けましたのよっ」
一人で練習した帰り道。いつものように【唐草ハウス】へ向かう途中の路地。
「本当に、どういうつもりですのっ?」
「主将だからって、大した役目も果たせずにしゃしゃり出てきて…… 大人しくベンチで待機していればよろしいのですわっ」
「そう言ったってさぁ。出れる生徒も少ないんだし……」
少女達の言葉に頭を掻きながら答えるショートカットの少女。
蔦の彼女。愛しい彼女。
「メンバーは他にもおりますのよ」
「でもさぁ、バテられちゃったら、しょうがないよね」
ほどんど練習もしない生徒には、前後半フルに出場できるほどの体力はない。だが……
「蔦くんが出るより、よっぽどマシですわ」
「ホント、アナタの彼氏って、どこまで図々しいのかしら。自分が出場することで、どれほど他の方が迷惑されているか………」
「アナタもお付き合いされているのなら、諌めるべきですわ」
「コウのバスケは、他の子よりも上だと思うよ」
「まぁっ!」
素っ頓狂な声は、笑いすら誘う。
「恋は盲目とは申しますが………」
「ご自分のお付き合いされている方が試合に出れれば、他の方がどれほど迷惑されていても構わないというのっ!」
「アナタという人は、本当に常識のカケラもない方ねっ!」
許せなかった。
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